第22章 貴女を意のままに1【三成】
ここに突然飛ばされて来たのと同様、突然に未来へ帰されてしまうかもしれない。
あるいは、この乱世に心も体も適応できず死んでしまうかもしれない。
それを想像すると背筋が凍りつく。
よく笑い、くるくる表情が変わり、生命力に溢れていた彼女を取り戻したい、三成はそんな一心で思いつく限りの事をしてきた。
まずは医者に診せたが『体には異常無し。心の問題なので時間が解決するだろう』と診断され、そんな悠長な事は言ってられないと激しい苛立ちを覚えた。
精神を落ち着かせる薬、滋養強壮効果のある食べ物を試したり、
彼女の興味のある物、反物や本、甘味、美しい花などを持ち込んだりしたが、いずれも結果は芳しくなかった。
寝ても覚めても名無しを思い、力になれない自分がもどかしく、彼女を失う恐怖に苛まれる日々。
(時間が無い…何とかしなくては…)
彼女を救う方法を求め、四方八方に手を尽くしていた。
「幻術の応用…」
調査をさせていた家臣からの報告に、三成は聞き入った。
「はい。暗示をかけて相手に幻覚を見せたり、心を掌握して行動を操ったり、惑わせて情報を聞き出したり、忍者にはそのような技術があるのはご存知でしょう。それを幻術といいます」
「…」
「元忍びで、その幻術を人の心を救う為に応用している者がいるそうです」
「心を…?」
「過去の辛い経験から心に深い傷を負って苦しんでいる人に術をかけて苦しみを癒したり、暗示によって今まで出来なかった行動が取れるようにしたり」
(本当にそんな事ができるのか…?)
にわかには信じ難い話だった。
「ある者は川で溺れた経験があり、その後は川に近づいたり大雨が降ると溺れた時の恐怖が蘇って、息ができず心臓が壊れそうな程に高鳴り、それは苦しい思いをしていたそうです」
(まるであの時の名無し様のようだ)
恐慌状態の彼女の様子と重なる。
「術によって、辛い記憶も他の記憶と同様に過ぎ去った過去と割り切れるようになり、苦しみが取り除かれ、川にも近づけるようになったとか」
それが本当なら、まさに三成が求めている名無しの救済方法になる。
だが、どこまで信憑性があるのか。
その情報を引き続き追い、その術師との接触方法まで調べるように命じた。
疑いながらも期待を抱いてしまう。
藁にもすがる思いだった。