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イケメン戦国 書き散らかした妄想

第19章 託された花2 【家康】


「…俺も…触れても大丈夫…?」

恐る恐る聞いてみると名無しはもう一度頷く。

市女笠から垂れた薄布の正面には切り込みがあり、頷いた動きで割れて名無しの顔がちらりと見えた。

いつもより更に白く透き通るような肌。

小さな唇を引き結び、湖のように潤んだ瞳が不安そうに揺れていた。

(名無しは…俺が必ず守る…)

名無しの腰に片手を回してぎゅっと引き寄せる。

家康の胸の内に強い想いが溢れて、かぁっと熱くなった。

心臓の鼓動が煩い。

名無しに悟られてしまうだろうか。

それとも雨の音が掻き消してくれるだろうか。

(そんなのどうでもいい、早く走らないと)

家康は馬の速度を上げ、草原を駆け抜けていった。




家康の御殿に到着した謙信と佐助は、

明け方に『危機が迫っている』と家康が名無しを連れて馬でここを発った事を家臣から聞いた。

「予兆を感じて嵐から逃げてくれているようですね」

「ああ、追うぞ」

馬を並走させてすぐに走り出た。




(おかしい…)

家康は空を見上げて眉を寄せた。

風向き等から、嵐の進行方向を予測して逃げているのに、不自然な動きで黒い雲は迫りくる。

(まるで俺たちを追いかけているような…名無しを迎えに来ているのか…)

その時、離れた空に閃光が走り、しばらく間をおいてからゴロゴロと雷鳴が響く。

(雷が…落ちたか…)

ワームホールの発生が近いのだろう。

(名無しを絶対に渡さない…)

強くそう思った家康を嘲笑うような強い風に煽られる。

家康は手綱を操作し、不安定になった馬の体勢を何とか整える。

名無しの市女笠が奪われるように吹き飛ばされ遠くへ運ばれ、あっという間に見えなくなった。

それどころじゃないのに名無しの顔が見られて嬉しかったし、綺麗だ、と思った。

再び空を裂くような閃光が走る。

その後に先程よりも明らかに早く、そして地の底から震えるような不気味な雷鳴が轟いた。

「きゃあぁっっ!!」

思わず上がった名無しの悲鳴。

家康はすかさず守るように腰へ回した手に力を込めた。

(まずいな…雷が迫る速度の方が早い…)

尋常ならざる現象、人智をこえた圧倒的な力が働いている。

それに畏怖し、背中にゾクリと嫌な汗をかく。
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