第18章 託された花1 【謙信】R18
「それにしても俺の名無しに触れただけで死に値する罪だ」
「ええ‥‥私は罪を犯しました‥‥どうかお斬りください」
表情を変えず淡々とした庭師に、謙信は頷いた。
「この者もこのように言っている」
「嫌です!!」
名無しの悲鳴に近い声が上がる。
「謙信様、この通りです。あなたが彼を斬れば名無しさんが深く傷つく。彼の処遇は俺に一任いただけませんか」
「謙信様‥‥お願いです!」
「く‥‥」
縋りついて必死に懇願する名無しの様子を見つめながら、謙信はゆっくり刀を下ろした。
「ありがとうございます!」
「名無し‥‥‥お前が罪だ‥‥」
「ん?」
庭師に駆け寄った佐助は、謙信の別のただならぬ様子を感じとる。
「名無し…お前を‥‥」
謙信は名無しの腕を強く掴んで歩き出した。
「謙信様!何をするつもりですか」
「佐助くん、大丈夫!話せばわかってくださる!庭師さんを安全な所へ!」
強い力で引っ張られながら名無しは叫ぶ。
「わ‥‥わかった」
二人は遠ざかっていった。
そこへ女中から助けを求められた信玄と義元が来て、事の経緯を聞く。
幸村は外出中だった。
まだ地面に倒れ込んだまま呆然としている庭師。
「大丈夫ですか?…申し訳無いのですが、身の安全の為、春日山城を出ていただきます。とにかく身を隠しましょう」
「いえ…私は斬られて然るべき罪を犯しました…」
佐助の声がけに、庭師は牡丹の花をじっと見つめながら淡々とそう言い、首を横に振った。
「いや、ただ名無しさんに花を見せてあげただけでしょう?」
「あの時…立場を弁えず…名無し様に触れたいと思ってしまったのです…」
地面についた両手で土をグッと掴む庭師に、信玄は屈み込んで目線を合わせ話しかけた。
「君は名無しを想ってこの花を育てたんだな」
一つ一つの花を愛でながら
「本当に見事に咲かせたね。君の真っ直ぐな心根が見えるよ」
義元もにっこり笑ってそう言う。
「後悔しないで欲しいんだ。名無しを好きになったこと。君の想いはこんなにも美しい花を咲かせた。名無しはとても喜んでいたそうだね。どうかその心を大切にしてくれ。君は誰かを幸せにできる人間だ」