第18章 託された花1 【謙信】R18
「あっ‥‥あの‥‥重いでしょ!」
名無しは驚いて目を見開いていた。
「姫様は軽いですよ」
そのまま牡丹の花々の前へと運んで行く。
戸惑いながらも、大好きな花があまりに見事に咲く様子に、名無しは目をキラキラさせながら見入った。
「綺麗‥‥」
花を見つめる名無しと、彼女を見つめる庭師。
腕に抱いていると、名無しの甘い香りにぼうっとする。
透明感のある肌も、潤んだ目も、ふっくらした唇も、艷やかな髪も、近くで見るとますます美しく見惚れる。
「姫さま‥‥」
限界だ、庭師はそう思った。
何かが今にも爆発しそうで名無しを抱いている腕にぎゅっと力がこもる。
その時、
「何をしている!」
空間を切り裂くような凛とした声が響き、現れたのは謙信。
名無しを奪い取ると一瞬で庭師を蹴り倒し、すぐさま刀を突きつけた。
「白昼堂々、名無しに手を出すとは」
「も‥‥申し訳ありません…」
「謙信様!違います!草履が見つからず、この方は私に牡丹の花を見せてくれようとしただけです」
「言い訳無用、今すぐ斬る!」
名無しは渾身の力で謙信の腕から逃れ、裸足のまま駆け寄り両腕を広げて庭師を庇った。
「この方は何も悪くありません!斬ると言うのなら、私をお斬りください」
「お前は自らの命をかけて、この者を守ろうというのか?」
「私のせいで罪の無い方が命を落とすなんて、そんなの耐えられません!!」
強い目で、ここまで毅然とした口調で訴える名無しを見たことは無かった。
それがますます謙信の感情を逆撫でしてしまう。
地面に倒れたままの庭師は、何か言いたくても全く声にならなかった。
そこへ、ただならぬ様子を感知した佐助が割って入る。
「何の騒ぎです?」
「庭師風情が名無しに手を出したから斬るところだ」
「違います!」
名無しは佐助に事情を説明した。
「どうどう謙信様、刀をお納めください。彼はいつも丹精込めて庭を手入れしてくれていました。真面目な良い若者です。花が咲くのを楽しみにしていた名無しさんに、いち早く見せてあげたかっただけなのでしょう?」
庭師見習いの経験もある佐助は、その丁寧な仕事ぶりに常日頃感心していた。
庭師は無言で、ただ深く頭を下げた。