第18章 託された花1 【謙信】R18
「まずいな」
「まずいですね」
信玄と佐助は顔を見合わせる。
「謙信様、せっかち過ぎんだろ。名無し食い終わってないのに」
「そういう事じゃない。自分も、あてられてるのに‥‥」
佐助と幸村の会話に義元が口を挟む。
「あれでしょ、名無しの色香が強くなりすぎて周りに支障が出てること。それに気づいてか謙信がピリピリし始めてること」
「義元も感じてたか」
「でも、義元さんは全然平気そうでしたよね」
「うん、感じるけど、それも美しさの一つかな。焼き物や織物、芸術品と同じように観賞してるよ」
「そんな風に割りきれるものかな」
「‥‥それか‥‥最近感じた悪寒の正体は‥‥久しぶりに風邪でも引いたかと思ってた‥‥」
幸村は両手を自らの身体に回して上下にさすりながら言った。
「無自覚だったな。そんな俺もさっきはヤバかった」
「前から思ってたけど、名無しって着付け下手だよね。だから崩れて隙が出てる」
「確かに。義元さん、着付け指導お願いします」
「うん、任せて」
「それから、しばらく女中さんの手伝いは止めさせましょう。床掃除とか」
「‥‥弓の指南、控えてもいいか?」
「忍術指南もできる自信がない‥‥」
「そんな一気に色々と止めさせたら可哀想だ。あの子は認められたくて色々と頑張ってきたのだから」
信玄が眉尻を下げて苦笑いする。
「そうですね‥‥では針子頭さんから針子指南をして貰いましょう。元々、裁縫が得意なようですし、女性ばかりの所だし」
「それがいいな」
「後は、できるだけ血気盛んな男を近づけないように」
「…良くわかんねーけど、これはいつまで続ければいいんだ?治んのか?治すにはどうすればいいんだ?」
しばらく黙っていた幸村が眉をひそめて呟く。
「……わからない‥‥」
佐助も眼鏡の真ん中を指先で上げながら考え込む。
「一理あるな。謙信にも控えるよう言ってみようか。名無しの体も心配だ」
信玄の言葉に周囲も頷いた。
「信長様との同盟後、戦が減って謙信様の関心が名無しさんに集中してるからな…」
佐助はため息をついた。