第14章 一日奥方3 【三成】R18
白い胸元に残る痕は、 昨日より薄くなってる。
濃くなってない‥‥。
三成が得意げに上書きした痕は無い…。
夢‥‥だったようだ。
「‥‥良かった‥‥」
安堵する俺に、名無しは衿元を直しながら不思議そうに小首をかしげる。
外はまだ明るい。
「で、何で早く帰ってきたの?」
「三成くんが早く家康様の元へ帰ってあげて下さいって。お土産をくれたよ」
名無しは、にこにこしながら風呂敷包みを開ける。
「家康に唐辛子煎餅。私にはお団子。今食べる?」
「ん…」
「お茶いれるね」
いつもと変わらぬ様子の名無しを見ていると、変な感じがする。
あの夢が妙に生々しくて。
ああ‥‥でも、夢で本当に良かった、そう思いながら食べた煎餅、うまい‥‥。
三成にしては気が利く。
「お団子美味しい!」
「で、何したの?」
「えっと、まず起こして、政宗のお粥を食べてもらって、政宗が三成くんを無理矢理湯あみに連れてって」
「…」
「それから散歩してたら部下の方たちが来てね、三成君を慕ってるって伝えたの。三成君、これからも武将として生きていいんですねって、元気を取り戻してくれた。ねえ、聞いてる?」
「聞いてる。それで?」
「昼餉を食べて、鯉に餌をあげたり、猫さんと遊んだり、囲碁をして私が負けて…。それ位かな」
「ふーん」
大した事はしなかったみたいだけど、いい気はしない。
「でも、良かった。三成くんがきちんと家臣の方たちと話せて」
「別に名無しが行かなくても良かったのに」
「確かに、私は何の役にも立たなかったな。三成くん、途中で突然、一人で城下へ出掛けてお土産を買って来てくれたの。かえって気を使わせちゃった」
「‥‥‥‥ふーん‥‥‥‥あのさ‥‥‥‥他に何かあった?」
「何かって?」
「危険な目に遭ったり‥‥とか‥‥‥‥。三成に助けられたりした?」
「あっ、そういえば、もの凄く大きな蛇がいたの」
「‥‥‥‥‥‥え?」
蛇?どういう事だ?夢と同じだなんて。
「それから三成に、妻を守るのは当然とか言われて、夫婦だからこんな事してもいいでしょうとか言われて、何かされなかった?」
「何もされてないよ。やだー。家康、妄想膨らませすぎ」
屈託なく微笑む名無しに嘘は無いようだ。