第11章 *File.11*
「……雪乃」
「ん?」
狭い車内でしばらく沈黙が続いてからの、信号待ちで。
唸るような声で、名前を呼ばれた。
「お前は俺を何処まで煽れば気がすむんだ?」
「へっ?」
「今日は、絶対寝かせない」
「何故っ?」
「覚悟しとけよ」
「だから、何でっ?」
「さっきも言ったはずだ。雪乃が可愛すぎるからって」
口から吐き出された言葉とは真逆の、獲物を捕えたケモノのような眼差しで口許には不敵な笑みを見せたから、ゾクリと身体が震えた。
「……」
こうなったら、何が何でも絶対に実行する。
そういうオトコだ、降谷零は。
あぁ。
私の休日よ、睡眠時間よ、さようなら~。
車の窓から見える、傾きつつある太陽に向かって、私は頭の中で手を振り続けた。