第9章 *File.9*
「ねえ、由美は気づいてる?」
「何をー?」
「雪乃さんってね、安室さんのこと、彼、としか呼ばないのよ」
「えー、そうだっけ?」
「おかしくない?現恋人で、ましてや幼馴染よ?」
「そっか。普通に考えたら、プライベートでは名前で呼ぶもんね」
「でしょ?」
「雪乃さんのことだから、恥ずかしいんじゃないですか?」
「意外に照れ屋さん、なトコあるよね」
高木君の隣で、羽田さんも笑顔で深く頷く。
「でも、正直私にはそれだけだとは思えないのよ。安室さん自体が、謎で得体の知れない人だから」
「刑事の勘、ですか?」
「…かもしれない、わね」
羽田さんを見返すと、彼の瞳が夜の繁華街で意味深に光ったような気がした。