第9章 *File.9*
そのまま、俯いてぎゅっと目を瞑る。
不味い。
感傷的になり過ぎた。
瞼の奥の陣平の笑顔が滲む。
マジで泣きそう。
「雪乃」
「えっ?」
その声に顔を上げた時にはもう腕を引かれて、ゼロの腕の中にいた。
「どうした?」
「…仕事は?」
「やっと帰れる」
「お疲れ、さま」
突然の出現にびっくりして、涙が引っ込んだよ。
相変わらず、気配を消すのが上手いんだから。
「で、涙の理由は?」
何でしっかりバレてるの!
「陣平の名前を聞いたから」
「なんだ。俺に逢いたかったから、じゃないのか?」
「バカね。貴方に逢いたいのは、四六時中年中無休なの!」
「!」
「ふふっ」
思わず笑みを洩らすと、照れてフイと逸らされた視線が戻って来る。
「からかった、のか?」
「まさか。本気に決まってる」
「だったらいい。みなさん、外にお迎えが来てますよ」
「はうっ?」
嵌められた?
ホンの一瞬で、降谷零から安室透へと雰囲気や声が変貌する。
カメレオンもビックリの、変わり身の速さ!
「よかったですね、雪乃さん」
「なーんだ。平気なフリしてただけかー」
「顔赤いわよ?」
「店の前でみなさんにお会いしたので、代表して、僕が呼びに来たんですよ」
「……何で、覗いてるの?」
三人の生暖かい視線が、すっごく恥ずかしいんだけど!
「廊下から話し声が聞こえるなあと思ったら、雪乃さんだし?」
「五日ぶりの再会だし?」
「優しく抱擁されてるし?」
「お心遣い、有難うございます」
うっわ!
安室透スマイルだ。
うん。
邪気が、裏がなければ、素直に可愛いです。
「いえいえ。さて、今日はお開きにして帰りますか」
「幸せそうな雪乃さんを見れて、安心しました」
「えっ?」
「どっか淋しそうだったってコト!」
「私達だけじゃ、その淋しさは満たせないってね!」
「す、すみません。何か色々とお気遣いいただいて」
恥ずかしいにも程がある!
「ありがと」
腕を解かれると、鞄と上着を手渡される。
「安室さんがいないと、可愛い雪乃さんは中々見れないもんね」
「普段は姉御ですから」
「そうそう」
「ってか、美和子と由美も姉御じゃん」
「…確かに」
「でしょ?」
三池が二人を見比べて頷く。