第9章 *File.9*
「雪乃さんは、結婚どうすんの?」
「へっ?」
「えっ?しないのっ?」
「ま、まあ、その予定ではありますが。なに、いきなり」
三人揃って、急に真顔で身を乗り出して凝視されたら怖いわ!
口に含んだ烏龍茶を、思わず吹き出しそうになったじゃん。
「何時ですかー?」
「彼次第、かな?」
「婚約指輪はもらってないの?」
「私が要らないって拒否った」
「探偵業って、儲からないの?」
「だから由美、さっきから失礼だってば」
美和子はキッと由美を睨む。
うんうん。
三十路男だ。
どれだけイイ男でも、いい加減、定職に就けよ。
常識のある大人だったら、誰だってそう思うって!
だって、安室透は喫茶店ポアロのウエイター兼、私立探偵よ?
「お気遣いなく。直で聞いたことはないけど、収入は私よりかなーりいいはずよ」
今更だけど、怖くて聞けないわ!
だって、警察庁公安のあのゼロよ?
何をどう考えても、給与はいいに決まってるじゃん!
オマケに、ああ見えて何気に倹約家。
「だったら、どうしてですか?」
「普段つけられないし、勿体ないから。そしたら、代わりにこれをくれた」
ブラウスのボタンを二つ外し、シルバーのネックレスのチェーンを引っ張り出す。
「キレ〜!」
「ダイヤモンド?」
「これ、絶対高いでしょ?小さくても凄く質がいいダイヤに間違いない!」
「さあ?値段までは」
「確かにめちゃくちゃ輝いてる」
「由美が言うなら、そうかも?」
私は所謂ブランド物やら鉱石にはあまり興味がないから、流行りや相場なんかはハッキリ言って知らない。
くれると言うのなら、有難く頂戴は致しますが。
「雪乃さんによく似合ってますね。ダイヤのサイズも計算されてそう」
「悪く言えば、隙のない計算高い男」
「由美!」
「いいって、美和子。自分の彼氏ながら、超ハイスペック過ぎて驚かされてばっかだし。でもそれを言うなら、羽田君もでしょ?」
「秀吉は安室さんほどじゃないわよ!」
「羽田君は可愛いトコあるからね、由美たんって!」
彼のあのギャップは、ある意味凄い。
あの両親、あの兄妹。
一体あれは誰の血?
隔世遺伝、ですか??
「雪乃さん!」
「ホントのことじゃん?」
赤く頬を染めた由美の髪を撫でた。