第9章 *File.9*
『お疲れさまでした!カンパーイ!!』
掲げた4人分のグラスジョッキ同士が軽く重なる音が、馴染みの居酒屋の奥の座敷で響く。
「今日はありがとね」
ジョッキに注がれた烏龍茶を二口飲んでから、頭を下げた。
「でも元はと言えば、私が…」
「違うでしょ!悪いのは拳銃をぶっ放った犯人なんだから、美和子も立派な被害者!」
「そうよ、美和子!」
「そうですよー。せっかく皆で集まれたんだから、楽しくいきましょうよ~」
「……そうね!」
気を取り直して顔を上げた美和子が大きく頷いたのを見て、由美と三池は安心したように笑った。
「安室さんとは、何時もあんな感じなんですか?」
「あんな感じ?とは?」
「って、あの写真の感じってことでしょうが」
「あー、ね。家では普通じゃないの?ん?でも同棲の普通の基準が分からないかも」
「雪乃さんらしいわ」
キャハハと、由美が楽しそうに笑う。
「優しそうですよね」
「私にはまだ謎の人、かしら」
以前、ゼロと何処かで会ったはずだと、美和子はまだ疑ってるもんねー。
だから、美和子はゼロに対して、いい印象はない。
「何でも出来そうな感じ」
「うん」
「否定しないの?」
「だって、私もそう思ってるし」
謎ばかりよ、ホント。
「雪乃さんが入院したから、急に同棲することになったわけ?」
「ではなかったみたいよ。仕事の都合で三年ほど逢えなくてさ。それが解決したらって、ずっと考えてくれたみたいね、彼は」
「「「三年もっ?!」」」
「だから、ずっと彼氏いないって言ってたの?」
「そうね」
離れていた時間はとても長くて辛く淋しい時間ではあったけれど、ゼロと景光は生命懸けで私の生命を護ってくれたことを私は知っているから。
今ではただ、感謝の言葉しかない。
「それ、安室さんも知ってた?」
「私の判断でしたことだけど、本人も知ってたよ」
あの時はそれが最善の選択だと思った私のその意思は、ゼロにはちゃんと正しく伝わった。
だからコナン君に恋人の存在を訊ねられた時に、ゼロはYESとは答えなかった。
私の情報は、風見を通じて、ゼロと景光まで届いてたけどねー。