第8章 *File.8*(R18)
「予想通りか」
昼休みだろう時間に警視庁の駐車場に停めてあるハロを覗くと、運転席のシートを倒し、狭い車内で薄い毛布を被り丸まって爆睡している雪乃がいた。
昨夜の宣言通りに一睡も出来なかった今朝、ボーッとしながら朝食を食べていたのを思い出す。
「ふっ」
ガラス越しに気持ち良さそうに眠っている姿を見るだけで、今直ぐにでもこのドアをこじ開けて着ているスーツを脱がしてまた、思いのまま抱きたくなる。
昨夜一晩中この腕に抱いて、確かに今朝まで愛し合ったはずなのに。
どうやら、雪乃欠乏症は想像以上に重症らしい。
今更だが、離れていた時間の反動、でもあるのか?
運転席側のドアミラーの死角に盗聴器を仕掛けてから、ハロの真後ろに停めた自分の車に戻る。
「今回だけは許すよ」
半分は俺の所為、だからな。
「少しは眠れたか?」
「うわっ!」
「油断し過ぎだ」
「あの、ココ警視庁ですけど」
「だから?」
ハロから出て来た雪乃の背後から腹部に腕を回して、ふわりと抱き締める。
「誰かに見られるよ?」
「隠す必要がない」
「安室透は何処行ったの?」
「今は不在だ」
「ふふっ」
楽しげな声が聞こえて、安心する。
「また後で」
「ありがと。見張っててくれたんでしょ?」
クルリと方向転換して、チラリと動いた視線の先には俺の車。
「ああ」
「今日は、ゆっくり寝て下さい」
「自信は、ないな」
「どういう意味っ?!」
「雪乃が考えた意味」
「零っ!」
「早く行かないと遅れるぞ」
茶色の柔らかな髪を、ポンと撫でる。
「もう誰のせいよっ!いってきます!」
雪乃はスマホで現在時刻を確認するなり、慌てて走り出した。
「いってらっしゃい、か」
小さくなる後ろ姿を見て、思ったことが一つある。
入籍は急ぐか、と。
結婚式は一先ず置いといて。
男としては、雪乃にウエディングドレスを着せたいし、ドレス姿を見たい。
時間が経つにつれて、名前だけで縛り付けたくは無いと思っていた気持ちがすっかり薄れ、今はもう名前も込みで縛り付けたくなった。
雪乃だけは誰にも譲れない。
俺の中で、その想いがただ溢れて行くのを感じていた。