第8章 *File.8*(R18)
「私は……」
「……」
「降谷零がいい」
「理由を聞いても?」
夕食の後、雪乃と一旦分かれてから、風見に言われたことを話した。
当たり前だが、結婚や入籍は、俺の独断で決められることではない。
これから先の人生をずっと共にすると、二人で決めた。
だから二人の時間が合う間に、少しずつ話は詰めていきたい。
「分かってるくせに」
「雪乃から、直接聞きたい」
「私が出逢ったのは、降谷零。安室透じゃない」
「そうだな」
シンプルではあるが、望んでいた応えが返って来て安心した。
「零自身はどう考えてるの?」
「俺も雪乃と同じだ」
さすがに偽名で入籍とか、普通に考えても結婚詐欺にしかならないだろう?
公安の力を使えば、良くも悪くも詐欺まがいなことが難なく出来るのは間違いない、が。
「警察関係者にはバレるねってか、私の周りの人に、か。もれなく景光の素性もバレる?」
「考えたら、キリがない」
「それはそうだけど。上から小言を言われるよ?」
「そんなコトはどうでもいい」
「えっ?」
ギョッとした表情で、隣に座る俺を見つめる。
「俺はそこまで仕事人間ではない、し」
「ないし?」
「何時だって、俺が一番大切なのは雪乃、お前の存在だけだ」
「……零」
ソファからゆっくりと立ち上がった雪乃が、俺を丸ごと包み込むかのように正面から抱き締めた。
「零にとって私は……足枷になってない?」
頭上で聞こえた、不安混じりの弱い声。
細い身体からは、僅かな緊張が感じられた。
「なってたまるか、そんなもの」
「………」
お前の存在が、どれだけ俺の生きる支えになってると思ってる?
何時だって、どんな時だって。
今までこの身に何があったとしても雪乃、お前が生きてるからこそ、俺は今まで突っ走って生きてこれた。
「雪乃に出逢わなければ、今の俺はいない」
そう、断言出来る。
「…よかった」
安堵のため息が聞こえたと同時に、緊張が解けた。
「何か、あったのか?」
「ううん。時々考えてたこと」
「何時から?」
「ずぅーと前から。バーボンの頃は特に、かな。あの組織に私の存在がバレませんように。ゼロと景光が無事でありますように。って、毎日祈ってたから」