第8章 *File.8*(R18)
「全集中」
警視庁の術科センターの射撃場で、一人きり。
今日は仕事が落ち着いたタイミングで、早めにあがらせてもらった。
此処へ来るために。
専用のヘッドホンをして的の位置をしっかりと見定めてから、ゆっくりと瞼を閉じる。
しばらく拳銃を手にしてなかったから、久々感が半端ない。
でもきっと大丈夫。
今までの訓練時間と経験値は、ウソを付かない。
何より身体が覚えてる。
今一番信頼すべきは、自分自身だ。
目を瞑ったまま、深呼吸。
そして一呼吸おいてから、引き金を弾く。
構えた拳銃から銃弾が連射され、大きな銃声が響いた。
「フウ」
パチッと瞼を開く。
「若干右寄り」
「ぎゃあああ!」
その瞬間に、背後からヘッドホンを外された。
「失礼な」
「いやいやいやいや。ついさっきまでいなかったじゃん!」
驚き過ぎて、心臓バクバク言ってるんだけど!
「まさか、気付いてなかったんですか?」
「気付いてたら、普通こんなに驚かないわよ!」
「…確かに」
斜め上を見上げて、風見をキッと睨む。
「で、何で此処にいるの?」
場所が場所とは言え、お互いが仕事中に会うなんて初めて、だよね?
黒の組織の潜入捜査が完全に終わったからこそ出来ること、なんだろうけど?
「偶然です……多分」
「あら?正直」
チラリとゼロに視線を移すと、素知らぬ顔をされた。
「目を閉じたままなら、まあ及第点だな」
「手厳しいなあ、もう」
「ええーっ?!」
風見、煩い。
「次は?」
「両眼開けて」
「はい」
手にしたままのヘッドホンを装着されたから、五番の的の前に立ち、拳銃を構え狙いを定めた。
「スゥ」
呼吸を整えて集中力を上げると、引き金を弾く。
ダンッ、ダンッ、ダンッと銃声が響いた。
「ん、合格」
「ありがと」
思ったより腕は鈍っていないようで、一安心。
的の中央の円の真ん中に重なった。
「凄い、ですね」
傍で、風見の感心した声が聞こえた。
「集中力にムラがなければ、尚いい」
「昔よりは落ち着いた、ハズ」
「お二人は同期、でしたっけ?」
「見えない?」
「風見。それはどちらかが年上に見える、と言う意味か?」
「そういう訳では…」
「童顔だけど、ね」
「僕が、か?」
揺らりとゼロの雰囲気が怪しくなる。