第8章 *File.8*(R18)
「やっと雪乃さんに会えた!」
「由美!」
退院して、早一週間。
再開した仕事の内容もボチボチと本格的に戻って来た頃、管内の1階の廊下でその姿を見かけた。
「お見舞いに来てくれて、ありがとね!」
「もう絶対に無茶はしないでよ!」
「…はいはい」
再会して顔を見る度に、みんな口揃えてこれだ!
仕方ない、けど!
逆の立場だったら、私も同じこと言ってる。
「今度、雪乃さん家で快気祝いしよ!」
「いいね!うん?私ん家?!」
「何か問題ある?」
「大アリだわ!私ん家は絶対ムリ!」
右手を大袈裟なぐらい、左右に振る。
「えっ?引越しでもした?退院したばっかなのに?」
「あー、強制的に、ね」
月々の賃貸料は一体いくらっ?!
って、聞くに聞けないほど、セキュリティ設備が整った広い新築マンション。
夕陽が落ちる間際に聳え立つ、新しい我が家を見た時、目が飛び出るぐらい驚いた!
そりゃ、ゼロの職業事情を考えたら、仕方なくはないけど!
もうバーボンじゃないんだから、そこまで…。とは、とても言えませんでした。
引越した理由が理由なので。
「もしかして、例の彼氏と…」
「そんな顔してたら、羽田くんにドン引きされるよ」
どんだけニヤけてるの?
可愛いの台無し。
「へぇえ」
「私ん家以外なら、何処でも何時でも大丈夫」
「また彼氏の話聞かせてね!」
「絶対イヤ!」
あんな非の打ち所がない完璧主義彼氏の、一体何を話せと言うの!
「マジなやつ?」
「大マジのやつ。だから、私よりも由美たんのイケメン彼氏の話聞かせて!」
ムフフ。
「雪乃さんこそ、悪い顔してる」
「人の恋バナは楽しいからね~」
高木と美和子、千葉と三池とか。
「お嬢、行くぞー」
「はーい。またね、由美」
「はいはい、またね」
入口の方からの同僚の声に返事をして、走って行った。
「刑事のくせに、お嬢って」
「何があっても変わらないわね、雪乃さんは」
「美和子」
「だから、愛されるんでしょうね」
「噂の彼氏?」
「周りの人にも、よ。きっと私の父もね。あの様子だと、お互いモテ過ぎて大変そう」
「その点、高木は大丈夫って?」
「由美っ」
「冗談よ。高木も十分イケメンだから!」
「有難う」
「拗ねない、拗ねない」
「由美!」