第7章 *File.7*
「れっ、い」
「もう、我慢の限界だ」
「……あ、っン…しなくて…いいッ」
「分かった」
ソファに身体を押し付け、唇を僅かに放せば、ぎゅっとしがみついてきた。
入院していた、長い時間を埋めるように。
まるで俺の存在を、確かめるかのように。
雪乃の想いが彼女の全てから伝わって来たから、俺はしばらくそのままでいることにした。
「雪乃?」
「ん、起きてるよ」
「さすがに今寝られたら困る」
「よく言うよ。寝てたって、問答無用で抱くくせに」
「当然だ」
「…開き直ってるし」
「どれだけ待たされたと思ってる?」
「私に比べたら、可愛いモノだと思いますけどね?安室透さん??」
「……」
「ふふっ。冗談よ。零の想いはちゃんと分かってるつもり。それに、我慢の限界は私も同じなの」
伸びて来た温かい指先は、シワが寄っただろう、俺の眉間に触れる。
「くすぐったい」
「…幸せね」
そのまま、頬を包み込まれる。
柔らかな微笑みと共に。
「…何が?」
「こうして自由に零に触れられること。零に触れてもらえることが、ね?」
当然の事ながら、病室では触れるにも限度があるし、邪魔は入るし、か?
「だったら…」
「うん?」
「もう二度と、あんな無茶をするな」
「貴方と同じ刑事をやってる限り、約束は出来ない」
間髪入れずの、予想通りの返答。
「じゃあ、辞めるか?」
「へっ?」
真剣な表情がキョトンとしたモノに変わるのを見つめながら、身体を支えて起こした。
「雪乃、俺と結婚して欲しい」
「……」
瞳が大き見開かれた後には、満面の笑みがあった。
「返事は?」
「はい。私を零のお嫁さんにしてください」
「喜んで。でも、まだ刑事は辞めない、か?」
「もう少し、だけね」
「お前は一度言い出したら聞かないから、そこは我慢するが、もう二度と無茶はさせない」
「だからって、今から公安に、は絶対止めてね」
「その手もあったな」
「それはヤダ!」
「何故?」
「捜一の敵になりたくない」
「だから、最初から公安を選べば良かったんだ」
警察学校の卒業間近に、俺と景光と共に雪乃にもそういう話があったのは、確かだ。
上司からの提案話を聞いたその場で、その提案話を蹴ったとあっけらかんとして報告されたのも、また確かで。