第7章 *File.7*
ガチャ
「はぁ…ハアッ?!」
「……」
「此処、私ん家だよねッ?」
長い病院生活もようやく終わり、やっと我が家に帰って来れたと安堵のため息を零した。
はずが、途中で止まってしまった。
代わりに出たのは、この目を最大限まで見開いてた、私の素っ頓狂な声。
が、夕暮れ時のアパートの通路に響き渡った。
「あの…これは一体どういうコトでしょう?」
「見たまんま」
「全然意味分かんないんだけどッ?」
我が家のハズの部屋には見慣れた家具どころか、持ち物一つさえも残ってはいなかった!
部屋の明かりを付ければ、そこはただの空き部屋化としている。
何故?!
何時一体何がどうなって、こうなったの?!
「今日から、雪乃の家は俺の家だ」
「……零の、家?」
しれっと平然として、当たり前のように言わないで!
真横にいる零を見上げて返って来た返事は、
「ああ」
の、たった一言。
で、済む問題じゃなくない?
「そういうことは事前に…」
「提案したところで、何かと仕事の所為にして、ズルズル引き延ばされるのは目に見えてるからな」
「うっ…ごもっとも」
「そこは素直に認めるのか」
言葉を遮られた上、頭上で深いため息を洩らされた。
「この件に関しては、誰も反対しなかったよ」
「…でしょうね」
「自覚があるようで、何よりだ」
今日は、退院したその日ですからね!
零を筆頭に身内、仕事関係者、知人のみなさんに多大なご迷惑をお掛けした自覚は、嫌でもしっかりありますよ!
これ以上此処に居ても仕方ないからと、部屋の明かりを消して、鍵を閉める。
「本当は…」
「私が落ち着いてから、だったんでしょう?」
「!」
零が立ち止まり眼を見張ったまま、私の方を振り返る。
「仕事上、急がなきゃならなかった。零の都合は分かってるつもりだけど?ただ…」
「ただ?」
「今日は色々あり過ぎて、頭がパンクしそうなだけ」
「……ゴメン」
「零が謝る必要はないの」
だって、全部私の為、でしょう?
そう言いながら腕を伸ばして、少し俯いた零の頬を包み込んだ。
多忙な時間を割いてまで迎えに来てくれて、臨時休業したポアロで景光と食事の用意をして。