第7章 *File.7*
「なるほど」
電話越しにお見合いの話を持ち出した時のあの拒絶反応は、こういう意味でしたか。
「付き合ってんのか?あの二人」
「恐らくは」
敢助君が雪乃の方を顎で指すので、頷いてみせた。
お互いに、厄介な相手を選んだものですね。
まさかの公安のゼロと、警視庁一のお転婆刑事ですか。
「ええっ?」
「由衣、お前は鈍すぎだろ」
隣で敢助君が呆れた顔で、上原さんを見下ろした。
「雪乃ちゃん達も幼馴染って、言ってなかった?」
「小学校一年生からのね」
「長ぇな、アイツらも」
「そうですね」
小学校一年から警察学校を卒業するまでの期間ずっと三人一緒ですから、三人の絆もより強く深いでしょうね。
「幸せ~っ」
当の雪乃はカウンター席で、ふにゃとした表情で暢気に二人お手製のケーキを食べている。
敢助君ではありませんが、あれは今年で30歳を迎えた女性の表情ではありません。
喜んでいいのやら、悲しんでいいのやら。
「病院食はどうでしたか?」
「あんまりー。美味しくも無く、不味くも無かった」
「そうですか」
「雪乃はゼロのご飯食べてるから、無理はないよ」
苦笑する安室君の隣で、景光が雪乃の髪をポンと撫でる。
「ありゃ双子じゃなくて、完全に歳が違う兄と妹の図、だな」
「いいんじゃないですか?」
安室君と雪乃が恋人同士になって尚、三人が三人らしくあるのなら、それが一番ですから。
兄である私は、遠くから見守るだけの立場です。
「由衣姉も食べる?」
「いいの??」
「何だ、俺にはくれねぇのかよ?」
上原さんは嬉しそうに、こちらを振り返って食べかけの食後のケーキを指さす雪乃の隣へと座る。
「敢助にあげるものは何もありません!」
「駄々っ子か!」
と言いながらも、上原さんの隣へ腰掛ける。
敢助君と雪乃。
違う意味で、この二人も兄妹に見えなくはない。
「ほら、兄さんも」
「人数分ありますから、よろしければ」
「では、お言葉にあまえさせていただきましょうか」
せっかくですから、今は雪乃の隣に用意された淹れたてのコーヒーと、雪乃絶賛のケーキを堪能することにしましょう。