第7章 *File.7*
「佐藤さん、そろそろ戻らないと」
「そうねえ」
「やっぱり仕事中だったの?」
腕時計を見て時間を確認する美和子に、呆れた視線を向ける。
「雪乃さん、そう言わないであげてくださいよ」
やっと、此処へ連れて来れたんですから。って?
「仕方ないなあ。今日だけよ?」
「目暮警部にも内緒でお願いします」
情けない表情で手を合わせる高木の可愛さに免じて、今日は許してあげよう。
「今度は由美達と、休みの時に来るわね」
「是非そうしてちょうだい」
「では、また」
美和子と高木は景光とゼロに一礼をして、病室を後にした。
「景光っ!」
念の為に声を抑えて呼べば、
「愛されてるな、雪乃は」
まだ笑ってる。
「景光…」
「嫉妬深すぎ」
「雪乃がモテ過ぎるだけだ」
「「ゼロが言うセリフじゃない」」
「シンクロするな」
「「だって、ホントのことだし」」
「!」
ゼロはプイと顔を背ける。
「喉が乾いたから、売店に行って来るよ」
「コーヒー」
「はいはい」
「ちょ、景光!」
また、このタイミングで逃げる!
「ごゆっくり」
「そうじゃないでしょ!」
景光はヒラヒラと手を振って、さっさと出て行ってしまった。
これ、またヤバい展開のやつ…!
「懲りないな、お前も」
景光が出て行くなりこちらを振り返り、ツカツカと大股で枕元まで歩いて来た。
怖っ!
「キスしか出来ないのが、本当に歯痒いよ」
「っン」
顎クイをされ、空いてる手で私の両手を拘束するなり重なる唇。
私だって、身体が求めてしまうのに。
何時だって何処にいたって、貴方の想いを全て受け止めたいと思っているのに。
歯痒いのが自分だけだなんて、思わないで!
「何故泣く」
「言わない!」
キスの途中で涙が止まらなくなったから、唇が離れるなり、今度は私がプイと顔を背けた。
「分かってる。お前も俺と同じ気持ちでいてくれてること」
「……」
「俺はもう…」
「……」
「雪乃、お前しか愛せないよ。この心も身体もお前にしか反応しないから」
「……」
耳元で囁かれる、誘惑するようなあまい声。
反応するな!と、頭と心に頑張って言い聞かせても、勝手に顔が火照る。