第7章 *File.7*
「やっと来てくれた」
「雪乃さん…」
「遅い!」
私が入院してから、早半月。
既に何度目かの、今回の入院生活にも慣れてしまった頃。
その間、誰よりも此処へ来てくれることを願っていた彼女が、ようやく訪れてくれた。
「ご、ごめんなさい」
「はい。こっちに来る!」
ベッドに横になっている私に、恐る恐る傍に寄って来た涙目の美和子の腕をグイッと引っ張ってから、両手で彼女の頬をパンッと音を立てて挟み込んだ。
美和子の目が白黒して驚いている。
「雪乃さん?!」
美和子の傍に控えている高木を、一睨みして黙らせた。
「私が生命張って助けた生命、一生大切にしてもらわないと困る!」
「だって…」
「だって、じゃない!この先ずっと、美和子には刑事として堂々と胸を張って生きてもらわないと、私が困る!」
「…どうして?」
「貴女のお父さんに顔向け出来なくなるでしょ!私にとって、美和子も美和子のお父さんもとても大切な人なの。それだけは忘れないで」
「雪乃さん…」
理由は景光に聞いてるはずだ。
「ほら、また泣く!それに高木も!」
「ぼっ、僕ですかっ?」
普段は勝気で滅多に涙を見せない美和子にオロオロしながら、自分を指さして目を丸くする。
「貴方も私の可愛い後輩なんだから、何時までも二人仲良く楽しい人生を送らないと怒るわよ!」
「雪乃さん、何か言ってることが年寄り臭いです」
「「ぶっ」」
「そこ、笑わない!」
高木の言葉にゼロと景光が吹き出して、肩を震わせていた。
「安室さん?!と…」
「雪乃の兄、です」
景光はスっと頭を下げる。
仮にも刑事二人相手に、病室の隅で気配を消さなくてもいいでしょ?
「お二人は、お知り合いなんですか?」
「それは秘密です。これ以上の詮索は何もしないように」
安室透のゼロが口許で人差し指を立てて、ウインクした。
「は、はい」
高木は恐縮し切ったように、頷く。
まさかこの二人が公安だとは、思いもしないんだろうな。
「あっ!」
「佐藤さん?」
「雪乃さんの彼氏って!」
あー、それね。
また蘭ちゃんか園子ちゃんから聞いた口か。