第7章 *File.7*
俺の質問を聞いた雪乃の大きく瞳が見開かれた、次の瞬間だった。
その瞳から、再び止めなく涙が溢れたのは。
「ウソじゃなかっただろ?」
「……」
夢の中で?松田、萩、班長の三人に会ったと言う、二人の話を聞いた。
が、だ。
「ゼロは悪者扱い?」
「にしか聞こえないけど」
隣で景光が首を傾げたら、ベッドの上で雪乃まで同じように首を傾げた。
「陣平と萩に、何かしたの?」
「何故そうなる」
「それとも……」
「「……」」
形のいい顎をするりと撫でながら、
「雪乃を巡ってのいざこざ。とか?」
景光が爆弾を投下した。
「「!」」
心当たりがなくもない俺は目を見張ったが、対して雪乃は何故か頬を薄らと赤く紅潮させた。
「えっ?」
爆弾を投下させた本人は、思いもよらぬ雪乃の反応を見て危険を察知したのか、
「もう時間はないよ、ゼロ」
そう一言、言い残して、そそくさと病室を出て行ってしまった。
「零?」
「誰に、何された?」
「じ、陣平にだ…」
「だ?」
枕元に掌を付く。
身動き取れない雪乃が、逃げられるわけがないのに。
「き締められた?」
「何故?」
問いかけると、そらされた視線が戻って来る。
「私が、三人に会った途端に号泣しちゃったから」
「何故、松田に?」
「目の前にいた、から?」
「ホォー。でも、タダで許してはあげられないな」
どれだけ心配したと思ってる?
何度、最悪の事態を想像したと思ってる?
呑気に夢を見てるヒマがあったなら、一秒でも早く目を覚まして欲しかった。
そう告げたら、アイツらは怒るだろうか?
それとも三人揃って、呆れた顔をするのか?
後者の確率の方が高そうだな。
三人の顔を思い浮かべて、自分の中で勝手にそう結論付けた。
「どうしたら、許してくれるの?」
「言わないと分からないか?」
「分かるよ」
ゆっくりと伸びて来た指先が力無げに俺の襟元を引き寄せ、そのまま重なった乾いた唇。
「…っん」
時間切れだと景光が廊下から病室の扉を軽く叩くまで、二人きりの短い時間を過ごした。