第7章 *File.7*
「雪乃?」
警視庁公安の風見の権限を借りて、真夜中に忍び込んだ、警察病院のとある病室。
わざと明かりを付けずに、カーテンは開いたまま。
街灯と半分に欠けた月だけが、暗い室内をぼんやりと照らしていた。
夜遅くに終わった手術は無事成功し、一命は取り留めたが、雪乃は未だ深い眠りから目覚めることはない。
「……ぎ、じん……」
何か呟いた気がして口元に耳を寄せれば、この耳に届いたのは旧友の名前。
同時に固く閉ざしたままの瞳から流れて頬を滑り落ちる、一筋の涙。
「…松田?」
雪乃が「じん…」と呼ぶ人物は松田陣平、ただ一人。
ならば、「ぎ」は、萩?
伸ばした指先で涙を拭くと、濡れた指先にちゃんと肌の温もりを感じて安堵した。
「もしかして…」
「?」
「会ったのかも。あの三人に」
「はあ?」
思いもよらぬ景光のセリフに振り返った俺の声は、さぞかし間抜けだったはずだ。
「ゼロ、そろそろ」
「ああ」
スマホで現在の時間を確認した景光に、頷いてみせた。
せめて、雪乃が目覚めるまでは傍にいたかった。
だけど時間だけは、止まってはくれない。
決して、戻ってもくれない。
何時も、どんな時も。
どんなに願っても。
たった、一秒の刹那の時間でさえ。
たった、一度きりでさえ。
「……」
窓から僅かに差し込み始めた、朝日の光。
「また、来るよ」
眠り続ける雪乃に一言残して、踵を返した。
その時、
「……ゼ、ロ?」
「「雪乃?!」」
掠れた声が俺の名を呼んだ気がして、景光と声を揃えて振り返った。
「ただい、ま」
血色のない青白い顔のまま、だけど俺達をしっかりと見つめ返して力なく微笑む。
「「おかえり」」
「心配かけて、ごめん、なさい」
「雪乃、お前は大切な友人の命を守った」
「褒めるべき、立派なことだよ」
「……あり、がと。美和子は、無事?」
「ああ。怪我一つないよ」
「よかっ、た」
景光の掌が髪を撫でると、安心したように力を抜いた。
「痛みは?」
「痛いけど、撃たれた瞬間よりは全然。痛み止めが切れたら怖い」
「その時は直ぐにナースコールをして」
「はーい」
「で、さっき眠りながら泣いてたけど、どうした?」
「!!」