第1章 *File.1*
プクッと頬を膨らませた雪乃を呆然として見つめた後、同じタイミングでゼロと視線が合った。
その直後、二人同時に吹き出した。
「「くっ、クククッ。ハッハハハハ!」」
「どうして、二人して笑うの?!」
雪乃が言う、女性の目から見た超イケメンやら、超イイ男の定義はイマイチよく分からないけど、色々と褒められたのは確かなようだ。
一人プンスカ怒る雪乃の髪を撫でながら、雪乃、お前だけはずっと変わらずにいて欲しいと、兄さんと同様に妹を溺愛しているオレは心から願った。
「さっきから気になってたんだが…」
「何が?」
カウンター越しに、ゼロがマジマジと見つめてくる。
「景光。お前、髭は?」
「あ~、髭?」
数年ぶりにスベスベになったばかりの自分の顎を軽く擦りながら、隣に座る雪乃と視線を合わせた。
今から10時間ほど前を思い出す。
「?」
「今朝、剃らされた」
「今朝?」
「家まで迎えに行った早々に」
「……」
「高兄もだけど、髭の所為で、折角の男前が台無しなの!髭はなくていいって、前から言ってるでしょ!」
「剃るまで出してもらえなかったよ」
実の妹とは言え、一人の男として、そう言ってもらえるのは正直嬉しくはある。
「ホォー。今朝、男前、ねぇ」
「「!!」」
ゆらりと異様な雰囲気を纏い、キラリと鋭く瞳を光らせたゼロの怪しげな黒い声を聞いた瞬間、雪乃と顔を見合わせた。
「「これ、ヤバいヤツじゃ無いの?」」
視線で会話する。
長い付き合いだ。
絶対間違いない。
「ちょっと、御手洗に行って来る」
「!」
悪いけど、逃げるが勝ちだよ。
「「雪乃、後は任せた!」」
「「景光、ズルい!」」
そう目で訴えては来たけど、オレを逃がさまいとギュッと握られた袖口をやんわりと離して、ほとぼりが冷めるまで、トイレにこもることにした。
ふぅ、やれやれ。