第7章 *File.7*
久しぶりに思い出した、幼い二人。
両親の死によって、あの頃は二人とも精神的に不安定な時期でもあったんだ。
その日以来、ときどきその交番に遊びに行くようになった。
佐藤刑事の父正義さんが警視庁捜査一課刑事部に配属され、彼が殉職する、あの日まで。
ある日突然訪れた、両親との死別をきっかけに失声症と記憶障害を患ったオレの傍にずっといてくれた雪乃と、その頃に出会ったゼロの三人で。
警察病院に到着するまでの間、オレは何故か子供の頃の自分を鮮明に思い出していた。
「仕事があるので、一度戻ります」
赤いランプが浮かび上がる、人気ない手術室の前。
もちろん、この場から離れたくはない。
だが、事件は待ってはくれない。
かかってきた電話を手短に済ませると、佐藤刑事にそう告げた。
「分かりました」
「手術が終わり次第、こちらに連絡を下さい」
手術の前に看護師から預かったままの、雪乃のスマホを見せた。
「はい。あの…さっき思い出したんですが…」
「?」
エレベーターに向かい掛けた足を止めて、振り返る。
佐藤刑事が長椅子から立ち上がり、真っ直ぐにオレを見つめた。
「雪乃さんが気を失う前に、『れい、ごめん』と」
「!!」
きっと、自らの死を悟ったんだろう。
「貴方の名前ではない、んですね」
「オレと雪乃にとって、とても大切な人の名前だよ。本人には必ず伝えておく。有難う」
オレは一礼して、エレベーターへと向かった。
ポケットに入れたままの、雪乃のスマホをきつく握り締めて。