第7章 *File.7*
「すみません。乗ります」
救急隊員が扉を閉める寸前を引き止めて、滑るようにして救急車に乗り込んだ。
「出して下さい」
目暮警部が何か言っていたような気がするけど、乗ったもの勝ちだ。
救急隊員に頷いてみせた。
「!」
車内にいた佐藤刑事が目を見開いて、オレを凝視する。
「……雪乃」
だが、彼女には構わずに雪乃の手を握り締めて、名前を呼んだ。
血色のない真っ青な顔、血塗れの身体、服。
絶対に逝くな!
何がなんでも戻って来い!!
お前はこれから、幸せになるんだろう?
ようやく、傍にいることを許されたのに。
やっとゼロ本人が、その手でお前を守ると覚悟を決めたのに…。
「容態は?」
「撃たれたのは一発だけですが、まだその銃弾が体内に残ったままです」
状況としては、最悪だ。
撃たれた場所が腹部、貫通してしまった方がまだよかった。
「貴方は、雪乃さんのもう一人のお兄さん、ですね?」
「ああ」
名前と身分は明かせないが、オレが警察関係者と言うことを、彼女と高木刑事には伝えたと雪乃から聞いている。
まさか、こんな形でその発言が役に立つとは思いにもよらなかった。
生まれ持った雪乃のその直感的な感性には、何時も驚かされる。
きっと、母から譲り受けた感性、なんだろう。
「…ごめんなさい」
「目が覚めたら、雪乃には謝罪より、感謝の言葉を」
雪乃の血で濡れた頬に、また涙が伝う。
「だけど、私のせいで雪乃さんが…」
「君を助けた理由は、二つある」
「…二つ?」
「一つは雪乃にとって、君が大切な友人であること。もう一つは、雪乃は君のお父さんにお世話になっていたから」
そして佐藤刑事の恋人である、高木刑事のため。
「…父、に?」
彼女の様子を見ると、どうやらこの話は初耳らしかった。
何も言わずに、仕事仲間として、友人として彼女の傍にいる。
雪乃らしい、身の置き方だ。
「もう20年以上も昔の話だけど、オレと雪乃がこっちに引越しして来たばかりの頃、人一倍好奇心旺盛な雪乃が一人迷子になったのを助けてもらった。交番から連絡をもらって慌てて迎えに行ったら、雪乃は君のお父さんとお菓子を食べて、楽しそうに笑ってたよ」