第7章 *File.7*
雪乃の命が危ういこんな非常時でさえ、思いのままに彼女の傍へ駆け寄れない自分の立場が心底嫌になる。
未だにかつてない怒りと哀しみで、固く握り締めた拳が震えた。
「ゼロ!」
「景光?!」
「たまたま近くにいたんだ」
背後からの声に振り返った時、救急車が到着した。
傍で景光が膝に手を当てて、息を整えている。
「!」
「任せといて。お前よりはまだ融通が利くから」
無意識に向かい掛けた足を、腕を掴んで引き止められた。
こんな時にこんな状況だからか、景光はお茶目にウインクをすると、救急車へと再び駆け出して行った。
「……」
誰よりも頼りになる、逞しくもあり、羨ましくもあるその広い背中を無言で見送る。
「……」
雪乃を頼んだぞ、景光。
固く閉ざした瞳を開くと、降谷零の顔に戻る。
平常心を取り戻し、何事もなかったかのように。
また、いち警察官である日常の僕に……。