第6章 *File.6*
「はぁ?あの公安が雪乃の彼氏ぃ?」
「もうかれこれ10年以上になるのかなー、恋人としては。でも中抜け期間があったから、元カレと言われたらそうかもしれない」
長いようで短い、10年。
出会いと別れを含め、私達には色々なことがあった。
「だからか。すっげえ愛されてんじゃん」
「へっ?」
運転中なのに思わず快斗の顔を凝視すると、頭の後ろで腕を組んだままニヤリと笑う。
「巧妙に隠しても、嫉妬心だけは隠し切れねぇからよ」
「素直に喜べないわ」
ため息を一つ。
「しっかしまさか、あの公安が警察庁の方だとは思わなかったぜ」
「……」
「表向きは喫茶ポアロ店員兼私立探偵安室透。本名は降谷零。警察庁警備局警備企画課通称ゼロ所属の捜査官」
「そこまで完璧に調べあげちゃうのね?令和の魔法使いの怪盗キッドさんは」
ここまでズバリと当てられたら、否定のしようがないでしょ?
バレたのは、私の所為じゃないからね!
相手が悪かったと、諦めて下さいよ!
「ちなみに雪乃の双子の兄である諸伏景光。彼もまた、警視庁公安の捜査官。だよな?」
「……困った子」
「長野県警の諸伏高明さんも、かなりの敏腕刑事さん、でしたよ?」
「私の秘密ダダ漏れね。職場では隠してるのに」
「お互いさま~」
「ゼロにバレても文句はナシよ」
寧ろ、バレない方がおかしいかと。
彼は彼でまた、快斗のことを徹底的に調べあげそうで怖い。
「あの公安のことだから、俺の正体を知ってもバラしやしねぇだろーからソコは多目に見てやるけど、あの名探偵には絶対秘密だぜ?」
「承知しました」
お互い秘密を抱えてる身なんだから、お互いがバラせるはずがないもんね。
右の人差し指を薄い唇に当て、ニッと悪戯っ子のようにウインクした快斗と狭い車内で顔を見合わせると、二人で吹き出して笑った。