第25章 *File.25*外伝*高校生編*
「…ん?」
的に矢が射た音が響いた次の瞬間、ワーッと会場が沸いた。
急に耳に入り込んだ歓声にふと我に返れば、私が放った矢は的の中心にある。
今まで戦っていた隣にいる他校の代表は、矢を的の外へと外してしまったらしい。
お父さん、お母さん。
有難う。
何時も傍で見守ってくれて。
今日は会いに来てくれて。
姿勢を正すと、深々と一礼をした。
もう二度と会うことが出来ない、両親に。
心からの感謝を込めて。
「優勝おめでとう、雪乃」
「ありがと」
部活仲間に囲まれて一通りワイワイ騒がれた後、景光のホッと安堵した笑みを見て、私もやっと肩の力が抜けた。
私と景光が双子の兄妹と知っている友達は、ほぼいないに等しい。
今どころか小学校の頃から考えても、だ。
そうしよう、と、三人で決めた。
それを育ての親にも話し、学校でも知られないように先生にも通達した。
私と景光、ゼロが幼馴染だと言うことは周知している。
今は私とゼロが恋人として付き合っている、ことも。
「お疲れ様」
「景光も、ね」
「ああ。で、何かあった?」
「うん?」
「最後に射た時」
心配そうに、顔を覗き込まれる。
「耳貸して」
「ん」
身長差から少し屈んでくれたから、口元に両手を添えて囁いた。
「お父さんとお母さんが来てた」
「えっ?」
さっきの高兄みたいに、切れ長の瞳が大きく見開かれる。
「あの一瞬だけ、音も景色もなくなって。そしたら、名前呼ばれたの」
「……」
「絶対に二人の声だった」
「うん。雪乃が聞き間違えるはずがない。きっと三人が此処に揃ってる、今だからだよ」
「私もそう思う」
「よかったな」
「すごくね」
近い場所で視線を合わせると、互いに笑顔になった。