第24章 *File.24*
「貴方はまだ安室透でもあるので、それは最終手段でお願いします」
「僕の限界次第だ」
「……上が煩い、ですよ?」
「元は言えば、雪乃を異動させた上層部の所為だろう?」
「貴方も諸伏さんも、彼女のことになると周りが見えなくなりますね」
「昔から自覚はある、僕もアイツも」
だからこそ、あの組織からひた隠し、護り抜いた。
そう、何年もの間。
何も伝えないまま別れを選び、たった一人で待たせた。
雪乃なら、言わずともこちらの事情を察して理解してくれると、勝手に決めつけて。
そう、望んではいた。
必ず迎えに行くから、全てが終わるまで待っていて欲しいと。
だが、それさえも伝えなかった。
恐かったんだ。
雪乃自身から、俺自身を拒否されるのが。
そんなことは有り得ないと、雪乃を信じてはいた。
それでも心の片隅で、それも有り得る話だと恐怖と不安がずっと消えはしなかった。
ヒトの心や感情は、日々変わり続けるもの。
それはヒトとして生きて行く限り、ごく自然で当たり前のことだから。
「……」
「それは雪乃も同じだ。アイツらを喪って、それは更に増した」
「到底、褒められることではありません。が…」
「が?」
「そんな存在がいる降谷さん達が、少し羨ましくもあります」
「…有難う」
ある意味、風見は俺達三人にとって、貴重な人物だ。
「降谷さんは自覚がないんでしょうが、最近、増えましたよね」
助手席に座る風見が、珍しく口元に少し笑みを見せた。
「何がだ?」
「感謝の言葉が、です。今までは『すまない』に、謝罪と感謝の意味が含まれていましたから」
「だとしたら、雪乃のお陰だ」
「ええ」
「お前も雪乃に好意を抱いているらしいから、僕も油断せずにいかないとな」
「ふっ、降谷さん!!」
「くくく」
冗談だ。と、続けて、動揺して焦る風見を見やってから、車を発進させた。