第24章 *File.24*
「言わせた本人が笑うの?」
「はっははは」
我慢出来るワケがない。
ぶすっと拗ねた声音に、更に笑いが止まらない。
「…今の私は、ものすごーく深刻な状況なのですが?」
「予想的中、か」
「うん!ロクに話もしないから仕事は分からないし。なのに、デスクワークばっか押し付けられるし、陰でコソコソ言われるし!まあ、それは慣れてるからいいけど」
腕の力が緩まったのを見計らうと少し距離を置いて、だが、直ぐ近い場所で目線を合わせる。
「俺と景光が原因なのは承知の上で言わせてもらうが、そんなことには絶対に慣れるな、溜め込むな。辛い時、哀しい時、悔しい時、もちろん嬉しい時も幸せな時も全部話してくれ。そのために俺はいる。雪乃の傍にずっと。そう、約束しただろう?」
「うっ」
「何故?」
大きな瞳がまた涙で潤う。
「零が…」
「俺が?」
「優しいから」
「何時もは優しくないのか?」
思わず、ムッとした。
「ふふっ。優しい言葉に、優しい表情を見せるから。私、零のその表情が大好きなの」
「……」
特に意識をしているつもりはない。
雪乃の前で、そんなモノは一切必要ない。
今度はニッコリと笑って、またギュッと抱き締められる。
「ありがと。零のお陰ですご~くラクになった」
「ああ」
何時どんな時も、俺はお前にとって癒す存在でもありたい。
帰って来た瞬間から、張り詰めていた雪乃の身体や表情からようやく力が抜けた。
「で、髪は?」
「あー、散々迷って異動日の前日に」
抱き締めている右手を放し、肩の上にまで短くなった、サラッとした柔らかい髪に触れる。
こんなにバッサリと切ったなら、一言ぐらい連絡をくれてもバチは当たらないと思うぞ?
「ったく」
「ふふっ。零は長い方が好き?」
「髪が長くても短くても、お前は可愛いよ」
「…ありがと。ところで、お腹は空いてない?」
「まだ、夕食を食べてないのか?」
時計の針は、もうとっくに九時を過ぎているんだが?