第4章 *File.4*
「有難うございます。でも現役の高校生である工藤君と蘭さんには負けますよ。ね?」
「…ソウデスネ」
もうヤダ。
助けて、景光!
どうせ、私は30歳になったばかりのオバサンですよ!
JKじゃなくて、悪かったわね!
半分ヤケになって、目の前にある、オーダーしてもいないアイスミルクティを遠慮なく飲んだ。
「…美味しい」
私が入れるの知ってるくせにガムシロを持って来てないなーと思ってたら、ちゃんと私好みの紅茶の濃さと甘さにしてあるじゃん!
どうしてもこう、行動全てに無駄がないの?
こんな些細なことで、私を喜ばせてくれるの?
ストローを加えたまま呟けば、
「光栄です」
と、すかさず返答があってチラリと視線だけを移したら、そこには安室透スマイル全開のゼロがいた。
「!」
傍にいれば傍にいるほど、ゼロの言動一つ一つに感情を激しく揺さぶられて。
何もかも全てが、彼の思惑通りに進んでいる気がして。
なのに、それがとても愛しくてひどく幸せで。
もう二度と、ゼロから離れられない。
分かってるのに、どんな時もそう思わずにはいられない。
そう、願わずにはいられないの。
「もう、心臓破裂する」
ポロッと吐き出した言葉が耳に届いてしまったのか、直ぐ傍にいるゼロの動きが不自然にピタリと止まった。
「?」
「参ったな」
視線を上げてみれば、珍しく照れた表情を浮かべ、高い鼻を長い指先で何度か擦っている。
そんな可愛い顔見せて、ゼロの方こそズルい。
胸のキュン度が半端ない。
「そんな可愛いことを言われたら、俺の方こそ心臓が破裂しそうだ」
「…バカ」
私の長い横髪を耳にかけるフリをして、直ぐ近い場所で紡がれた言葉。
もう、ホントにムリ。
溢れ出す感情を抑えきれない。
こんなことで泣く歳でも、泣いていい場所でもないのに。
ポアロの店員として仕事中のゼロに迷惑をかけるだけ、なのに。
あっという間に目がうるうるして視界がぼやけ、鼻の奥がツンとしたからそれを隠すために俯いたら、
「あ、安室さん?」
蘭ちゃんの困惑した声と同時に、ソファに座ったまま正面からふわりと抱き締められた。