第20章 *File.20*
「二月の異動で、望月雪乃を公安に引き込むことが決定した」
「!」
やはり、か。
「何か不都合なことでも?」
「彼女自身が嫌がっていましたので」
なあ、雪乃。
嫌な予感が当たったぞ?
お前の直感は、良くも悪くも本当によく当たるな。
もしかしたら、異動させられるかも、と。
理由の一つ目は、黒の組織が壊滅した。
二つ目はそれと同時に黒の組織に潜入していた俺と景光が公安の捜査官として元の位置に戻り、任務が落ち着いた。
三つ目は俺と結婚した、から。
「捜一は余程居心地がいいとみえる。だが、刑事以外の能力を考慮しても、佐藤よりは確実に上だ」
警察庁内の、とある一室。
直属の上司に呼び出された時点で、ロクな話ではないのが世の常だ。
「その点に関しては、否定しません。が…」
「お前がここまで歯切れが悪いのも、珍しいな」
「……」
分かってて、楽しんでるだろう!
「諸伏がいるから、大丈夫だろう」
異動直後は、腫れ物扱いされるのを分かってて言うのか?
「バラすつもりはないかと」
夫である俺のことも、双子の兄である景光のことも。
「だが、いずれはバレる」
「貴方がたは、一体何がしたいんですか?」
「警察学校を卒業と同時に、お前や諸伏と同じく望月も公安に引き抜く予定だった」
「その話は、望月本人から聞いています」
「今はお前と結婚した。こういう言い方をすると今はパワハラになるかもしれんが、いずれは警察を辞めることになる。ならば、上層部でも認められている彼女の実力は、その時まで公安で使わせてもらう」
「……」
実質的には昇格だ。
だが、そこに本人の意思は反映されない。
初めから、選択肢などない。
先に話を聞かされた夫である俺にも、当人である妻の雪乃自身にも。
話を聞いた現時点で、全ては覆されることがない決定事項だ。
「君達が結婚したのは、偶然だがな」
「説得力がありませんよ」
ため息混じりに言えば、目の前にいる上司はニヤリと口角をつり上げた。
偶然なワケがない!
正しくは、ずっとタイミングを見計らっていたのと、俺達の結婚を利用した、だろ!
こういうことが有り得るかもしれないとお互いに考えていなかったわけではないが、まさか現実になるとは。