第19章 *File.19*
「あれは…」
「ポアロの彼と雪乃よ」
「なんじゃ、ワシにも一言声を掛けてくれたら良かったのに」
「直接会うと、長くなりそうだからって」
後部座席に荷物を置いて助手席に座ると、二人の後ろ姿を見送った博士が唇を尖らせる。
「…まあ、時間が時間だしの」
「また顔を見せに行くって、言ってたわよ」
「あの二人は確か…」
「ええ、入籍したわね。思っていた以上にお似合いで、驚いたわ」
二人を包み込む雰囲気が穏やかで優しくて、二人の左手の薬指に輝くお揃いの結婚指輪が新鮮で眩しくて。
結婚しても、彼女は何も変わらない。
「違う、わね」
「ん?何がじゃ?」
「彼の隣にいる雪乃が、とても幸せそうだったのよ」
あんなに安心しきった、女らしさ全開の可愛らしい雪乃は初めて見たかもしれない。
何時もの彼女は雰囲気だったり周囲に対する警戒心だったりと、何処かしら刑事と言う職業を感じさせられるから。
彼もまた。
外にいるから柔らかい雰囲気を纏い、人気者のポアロの店員の安室透ではあったけれど、雪乃を愛し見守る眼差しだけは、きっと彼女の幼馴染で本来の姿である降谷零と言う男のもの。
「……変わっていないと思っていたけど、かの?」
「ええ。でも安心したわ」
他人の私なんかに心配されても迷惑だろうけど。
雪乃のあの言葉は、確かに本物だったから。
私にとって、思いがけないサプライズだった。
「珍しいのぅ。志保くんがそこまで誰かに思いを寄せるのは」
「…そうね」
出逢った時から、本当に不思議な人。
望月雪乃、貴女は。
私は貴女が大切なの。
今では貴女は私の友人であり、第二の姉なんだから。
貴女だけは幸せになって。
私よりも。
誰よりも。
絶対によ?
スーパーの駐車場を出て、フロントガラス越しに映る流れ行く車のライトを見つめながら、この世の何処かにいるらしい神様にそう願ってみることにした。
神様を頼るなんて、ガラでもないのは私自身が一番良く分かっている、けれど…。