第18章 *File.18*(R18)
「僕のですよ」
「あら、何が?」
「彼女が、ですよ。顔に出てますから」
「面白いおもちゃを見つけたような顔、ですか?」
「ええ」
「おもちゃにされるほど、私は暇な職業に就いてません」
「ふふっ。ますます気に入ったわ。貴女の名前を伺ってもいいかしら?」
「私は望月雪乃。宜しく、ベルモットさん?」
「雪乃って、呼んでも?」
「……」
差し出された手を握り返してベルモットがニッコリ笑うと、雪乃は言葉を失った。
「だったら、仔猫ちゃんって呼ぶわね」
「…名前でいいです」
「ふふっ。いい子ね」
不服そうに眉を顰めた雪乃とは対象的に、ベルモットは満足そうに笑みを浮かべて頷いた。
「……」
俺と沖矢昴はただ沈黙して、二人の会話を聞いた。
さすがにベルモットには敵わない、か。
圧倒的に、踏んでる場数が違う。
「何か飲みますか?」
「いえ。僕はもう帰りますので、お気遣いなく」
「私もいい。昴さん、ホントに今日はありがとね」
「お礼の言葉は一回で十分だ」
声は沖矢昴のまま、口調だけは赤井秀一で、ポンと雪乃の髪に触れる。
「うん」
「では、またな」
「またね」
雪乃は沖矢昴を見上げたまま笑顔で頷いて、彼を見送った。
「あら、ヤキモチ?」
「まさか」
今回ばかりは、本当に感謝をしなければならないようだ。
雪乃と沖矢昴の、偶然の再会に。
「なぁんだ、つまんないわね。私もそろそろ帰るわ」
「やっとですか」
「心配しなくても、また来るわよ。じゃあね、仔猫ちゃん」
バーイと、ベルモットは長い髪を靡かせて、颯爽とポアロを後にした。
来なくていい。
寧ろ、もう二度と来るな!
「……大丈夫か?」
「じゃないから、もう少しこのままでいて」
「了解」
ベルモットの気配が消えるなり、正面から抱き着かれたから、ふわりと抱き締め返す。
「……近いうちに、神社に行くか」
「うん。私も同じこと思った」
最近、雪乃の身の周りでロクなことがない。
困った時の神頼みではないが、一度お祓いをしてもらった方がいい。
勿論、夫である俺も一緒に。