第17章 *File.17*
「もしかしなくても、その調子で景光の髭も剃らせたんですか?」
「うん?誕生日当日に、髭を剃らないと景光とデートしないって言った」
「……」
ドヤ顔で、この娘は全く!
景光も景光で、雪乃の言いなりですか。
おまけに兄妹でデート。と、きましたよ。
その言い方だと、デートに誘ったのは景光の方なんですか?
「で、兄ちゃんはどうすんだ?」
「高兄は、何でもかんでも勘助に報告し過ぎなの!」
「愛されてる証拠じゃねえか」
「それとこれは別問題!」
プイと顔を背ける。
「代わりに欲しい物を何でも買ってあげますから」
「私は子供じゃありません!」
「そうだな。30の立派な女だ」
「勘助は煩い!口を挟まないで!」
「…雪乃」
降谷君が名を呼んで、宥める。
「ゔっ。じゃあ、猶予は結婚式までね!」
「……ハア」
やはり剃る前提、ですか?
「はい、約束!」
「…分かりました」
「絶対よ!」
満面の笑みで、私を見上げる。
「おいおい。結局、お前も弟と同じかよ」
「可愛い妹のお願いですからね」
元はと言えば、私の所為だ。
勘助君は誤解しているのかもしれませんが、何時も無茶ばかり言ってるように見えて、雪乃は我儘を滅多に言わない。
そう、父と母が亡くなってから。
景光と共に同じ大学へ進学する、卒業後に警察学校へ行くと決めた時も、学費に関して相談を受けた。
今では賞与がある度に、東京で育ててもらった第二の両親に返済をしていると聞いている。
奨学金制度を利用するつもりで第二の両親に相談したら、貴女は私達の娘なんだから何も心配しなくていいんだよ。と、逆に喜んでくれたとか。
「ありがと、高兄」
と、ぎゅっと抱き締められた。
こういう可愛いことを素でするから、私も妹離れが出来ない。
全く罪深い妹ですよ、貴女は。
私より長い時間傍にいる景光の方が、きっとそう思っているんでしょうね。
「すみません」
降谷君にそう視線を送れば、
「いいえ」
と、彼はゆるゆると首を振った。
「それから…ん?」
伸ばした人差し指で、私を真っ直ぐに見上げる雪乃の言葉の続きを遮る。
「謝罪の言葉は不要です。私もお二人に会えて嬉しかったのは事実ですから」
「うん!じゃあまたね、高兄」
「ええ、また。お気を付けて」
次は二人の結婚式、ですか?