第17章 *File.17*
「入籍した後でお訊ねするのも如何なものかとは思うのですが、この機会に一つ聞いておきたいことがありますので、少しよろしいですか?」
「はい」
雪乃と勘助君が騒いでいる隙を狙い、降谷君と二人少し距離を置く。
連絡先は交換しているが、互いの職業柄、電話を掛けるタイミングが難しい。
「雪乃は貴方を一人の男として見て接し、貴方を愛せていますか?」
「!」
降谷君は既に雪乃の夫としての立場にいるのだから、思いにも寄らない質問だっただろう。
予想通りに驚いた表情を見せた後、ゆっくりと瞼を伏せた。
「訊ねられるなら、逆の立場かと思っていました」
長い睫毛が揺れて現れたのは、強い意志の中に何処か優しさを含んだ蒼い瞳。
「それはありませんよ。雪乃への想いと誠実さ、君が誰よりも雪乃を大切にしてくださっていることは私なりに理解しているつもりなので、そこは安心してください」
幼馴染の彼が雪乃に対して適当な軽い気持ちで恋人としているのなら、あの時に即刻別れさせました。
それにいくら幼馴染兼親友とは言え、降谷君がその程度の男だったなら、先ず景光が許すわけが、認めるわけがありませんからね。
「有難うございます。傍に居ても居なくても、雪乃の想いは何時も僕に届いていますから、心配ご無用です」
「……」
少し細めて雪乃を見遣る降谷君の目はとても穏やかな色をしていて、その言葉が事実だと伝わって来る。
「でなければ、フラれていたのは僕の方です」
「景光と共に潜入していた、組織のことですか?」
「ええ。雪乃の存在を隠し護る為に、僕と景光は彼女に何も伝えずに、ある日突然距離を置きました」
「……雪乃は、聡い女性です」
景光が突然警察を辞めたと伝えてきた、あの時期と重なるはず。
「だから、期待をしました。僕達の事情を察してくれるだろうと。でもその反面、覚悟もしました」
「雪乃が離れて行くと?」
「はい」
だけど、雪乃は二人の事情と同時に自分の立場を理解して、何年もの間ずっと待っていた。
何時の日か、きっと迎えに来てくれるだろうと。
ただ、降谷君を信じて。