第16章 *File.16*
「よくもまあ、そこまで歯が浮くようなセリフを堂々と言えるもんだ」
赤井の妹はため息混じりに、雪乃に同情しているらしい。
「くくくっ」
反応が可愛過ぎて、笑わずにはいられない。
「人が悪いですよー、安室さん」
「僕は本心を言っただけ、ですよ」
半ば呆れたように梓さんに咎められたからそう返事をすると、テーブルに置き去りにされた千円札を手にして、レジで会計を済ませた。
「どうした?」
「恥ずかしかったけど…」
「けど?」
ハロで一旦マンションの駐車場に戻って来た雪乃は、俺が車から出るなり腕を伸ばして抱き着いて来た。
「凄く嬉しかった」
「それはよかった」
顔を上げて、照れ臭そうな笑顔を見せる奥さんに、チュッと触れるだけのキスをする。
あの言葉は揶揄ったわけではなく、俺の本心だと、雪乃には正しく伝わっていた。
「!」
「今はこれで我慢しておくよ」
「……今、は?」
「当たり前だろ?何なら、このまま家に帰っても構わないぞ?」
「それはイヤ」
笑顔で即答、か。
「はいはい。では、参りましょうか?」
手を取ると、助手席に誘導して、ドアを開く。
「ありがと」
「どういたしまして」
雪乃が車に乗り込んだのを確認すると、車のドアを閉めた。