第16章 *File.16*
「お疲れ様。今日は着替えて来たんですね」
「仕事の格好で、プライベートは出歩きたくありませんから」
今日は定時に終わり、大きな荷物はハロの中。
「ふふっ。確かに」
そう言いながら、カウンターの定位置に座る雪乃の髪をポンと撫でた。
「この後はデートですか?」
「ええ。夕食の買い出しも兼ねて」
「なぁんか…」
「どうかしましたか?」
洗い物をする梓さんの視線が俺と雪乃を行き来するから、雪乃がちょこんと首を傾げた。
「二人は凄くお似合いだなーって。まだまだ若いのに、熟年夫婦みたいに何でもお互いに分かり合って、信頼し合ってるって、感じかしら?」
「有難うございます。僕と雪乃が幼馴染なのを知っているからこそ、梓さんの目にはそう映るんでしょうね」
「うん」
本当のことを言えば、他人にどう思われようが、関係はないし、どうでもいい。
俺の傍に雪乃がいること。
それは二人の願いであると同時に一番大切なことで、また一番幸せな時間であることを、俺も雪乃もよく分かっている。
例え、今のような何気ないこの瞬間でさえも、俺達にとってはかけがえのない、大切な時間。
「お二人には、すっかり騙されましたけどっ」
「ははは」
「すみません」
少し怒った表情をした梓さんを見て、雪乃と視線を合わせると、ため息を一つ洩らした。
「いらっしゃいませ~」
「ラストオーダーのギリギリにすみません」
「いえいえー。蘭ちゃんと園子ちゃん、世良さんもどうぞどうぞ!ね?安室さん?」
「ええ、ごゆっくり」
ニッコリ笑ってはみせた、が。
「梓さん、今日も雪乃さんはいないのー?」
「……」
やっぱり。
「雪乃さんなら、今お手洗いに…って、園子ちゃん?!」
店内を見回し雪乃を探していた園子さんは、梓さんに聞くなり、お手洗いに一直線。
「ホントにいたっ!早く、早くー!」
「な、何?そっ、園子ちゃん?」
洗った手もまだ拭かないうちに、お手洗いから半ば引き摺るように出されたらしい。
戸惑いの声を上げながら、雪乃はJKの中へ座らされた。
やれやれ。