第14章 *File.14*
「さっき管内で拳銃を一発ぶっ放して、会議室の扉を大破させた」
「くっ、くくく。兄さんには黙っとくよ」
「そうして下さい。バレたら、大目玉食らうわ」
「でも、覚悟はしといた方がいいと思うよ」
「怖っ!」
楽し気に笑う景光の掌が、ポンと優しく雪乃の髪を撫でた。
「この歳になってもお転婆は治らないようだけど、これからも雪乃を宜しく頼むよ。ゼロ」
「ああ、護ってみせるよ。景光」
景光は満足したように頷いて、駐車場へと戻って行った。
「バカ」
「何が?」
「身内にキスしてるのを見られるって、どれだけ恥ずかしいのっ!穴があったら入りたいってのを、身をもって経験したわ!」
「俺はもっと見せつけたいけど?」
「…零のバカ!」
雪乃は収まりかけていた頬をまた真っ赤に染め上げると、それを隠すように俯いて、もう一度そう声を上げた。
「お前は最高に可愛いよ、雪乃」
「こんな場所で…」
「で?」
「口説かないで」
「……」
潤ませた瞳のまま上目遣いで、
「私だって、我慢出来なくなる」
可愛い声でそう呟く。
「帰ったら、思い存分に抱いてやる」
「!」
耳元で囁けば、華奢な身体がピクリと反応した。
「そこまで言ったんだ。拒否権はないぞ?」
「望むところよ」
「「……」」
直ぐ近い場所で視線を合わせると、同時に笑い合う。
時間も場所も、立場すらも忘れ去って。
これもまた些細ではあるが、俺と雪乃にとってはかけがえの無い、幸せな一時(ひととき)。
生きている限り、こんな時間が数え切れないぐらいに増えて積み重なればいい。
そう、心から願った。