第12章 *File.12*(R18)
「覚悟しててね」
「それは雪乃、お前もだぞ?」
「任せといて」
「ふっ」
胸を張って、トンと自分の胸元を軽く握った拳で叩く。
照れた表情は幼く可愛いと思えば、次の発言は職業柄、刑事のまま逞しかったり。なのに、抱いている時はまるで別人のように妖艶な表情と色気を解き放って、オトコとしての俺を惑わせ魅了し誘(いざな)う。
「どうして笑うの?」
「お前が愛しすぎるから」
「…あり、がと?」
「くくくっ」
今度は頬を紅く染めて、百面相なお前を見るのは本当に飽きないよ。
何時までも、雪乃だけは変わらずにいて欲しいと願いながら、車を走らせた。
「そろそろ起きろ」
入籍した翌日、まだ布団に包まる雪乃に呆れつつ、ようやく寝室の遮光カーテンを開けた。
昨夜は雪乃が行きたがっていたレストランで夕食を済ませ、そのままドライブを少し楽しんでから、夜遅くに帰宅した。
「ん〜」
「もう10時だ」
「…まだ~」
太陽の光が眩しいのか、掛け布団を頭まで引き上げつつも、ゴロンと窓ではない方向へと向いた。
「貴重な休みは有効に使うんじゃなかったのか?」
「朝方まで寝かしてくれなかったのは、一体誰よ!」
「はいはい。おはよう、お姫様?」
否定は出来ないから、しない。
ベッドの端に腰を掛けてポンと髪を撫でると、ムッとしながらも上体を起こす。
「おはよ。まだ眠い~」
「分かった、分かった」
意識は覚醒しているらしいが、瞼が開かないのかゴシゴシと指で擦る。
「肌を痛める」
「ん〜?」
仕事の日は目覚めはいいが、休みになるとこれだ。
「……」
「…零?」
擦る指先を掴んで止めさせると、キョトンと首を傾げる。
「今直ぐ起きないと、抱くぞ」
「なっ、何でっ?」
その一言で、さっきまで開かなかったはずの瞼をカッと見開いた。
「可愛いから、ムラッと来た」
「私を起こしに来たくせに、何言ってんのっ?!」
「人間は動物で、オスの本能だ。仕方ないだろう?」
そう言いながら、雪乃の両手首を握り締めて、上体をまたベッドに押し戻した。
「屁理屈を捏ねて、開き直らないで!」
「雪乃」
「!」
鼻先が触れるほど顔を近づけて名前を呼ぶと、ピタリと動きを止めた雪乃が息を呑む。
今から俺が言うだろう言葉を、予感して。