第12章 七変化
全員の視線の先には、薄く笑みを浮かべた夕顔が立っていた。
「笑ってるよお……」
「怖ッ」
夕顔が竜胆の襟首を掴んだ。
「あ〜〜ッ!やめてーな!堪忍やってええええ!」
そのままズルズルと部屋から引きずり出していく。
夕顔は硬直する桔梗に目線を投げる。
「何ぼーっと見てんだ桔梗。どうせてめぇも竜胆と一緒にいたんだろうが……お前も来い」
「ええええええ!」
「そ、そーそー! 桔梗のアホがおもろいことになりそうやから見に行こや〜って誘ってきてん」
「竜胆お前! 汚ぇ!」
「せやから兄やん俺はそれに付き合っただけで」
「竜胆! おま」
「いいからてめぇらまとめて相手すっから来いっつってんだよ……」
夕顔は、巻舌で、地を這いずるような声で吐き出すと目を光らせる。
桔梗は半泣きで頷いた。
障子が閉まって程なくして、竜胆と桔梗の絶叫が聞こえてくる。
「な、何やってるんでしょうか」
「ふふ、世の中知らない方がいいことあるからね」
「怖かったねー、にいにの顔!」
「ありゃかなりキレてたな」
残された陰間たちが喋っていると、勢いよく障子が開く。
また静まり返る。
夕顔はたった一人仁王立ちで、睨みを利かせていた。
「あれ、おふたりは……」
夕顔は瑞の疑問を素通りして、
「笑ってたヤツ全員シメるから来い」
半笑いで拳を鳴らす。
心当たりのある陰間たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「逃げんじゃねえ!」
夕顔はすぐにそれを追い掛ける。
「良かった〜……笑わなくて」
「やばかったのう」
胸を撫で下ろす陰間たちを横に、瑞は複雑な表情で夕顔のことを考えていた。