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影の花

第12章 七変化


二人はぽかんと瑞を見送り、

「竜胆竜胆」

桔梗が竜胆の腹を肘でつく。

「なんやねん」

ボソボソと耳打ちをした。

「……なんか面白そうなこと始まりそうじゃね?」

桔梗の言葉に、竜胆がニヤリと口角を上げる。

「……それ俺も思うたわ! 兄やんを着けるで、竜胆!」

「そう来なくっちゃ!」

瑞の後に続いた。

影の花に帰ってきた夕顔は、玄関戸を開き、目の前に立っていた人物に仰天する。

「えっ、あ……!?」

瑞は緊張気味に口を開く。

「手紙、ありがとうございました。私……大切な話があるんです」

「いや! 待ってくれ。オレから言わせてくれ」

廊下の隅から、桔梗と竜胆が二人の様子を覗き込む。

桔梗が声を潜めて竜胆に話しかける。

「何言ってんだ?」

解せない顔をする桔梗と反対に、竜胆は面白そうに目を細める。

「ははーん……なるほどなあ、分かってきたでぇ。お手柄やで桔梗、多分これからめちゃめちゃおもろいこと起こるで」

夕顔は真っ直ぐに瑞を見据えた。

「こんなナリじゃ信じられねえかもしんねえが、瑞子さん、オレは本気なんだ」

深く頭を下げ、瑞に片手を差し出した。

「オレと付き合ってくれ!」

瑞は伏し目がちに答えた。

「わたくしは、男です」

「えっ? は……?」

夕顔は弾かれたように顔を上げ、目を瞬かせる。

金色の瞳を真ん丸に見開いて呆然とする姿に、瑞は申し訳なさそうに言う。

「……まだ分かりませんか」

頭に手をやり、

「瑞です」

ゆっくりとかつらを外した。
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