第12章 七変化
瑞は人目を忍び、特に、夕顔と鉢合わせすることがないように細心の注意を払いながら影の花に帰宅する。
裏口から忍び込むように入り、自室で夕顔からの手紙を開くと、案の定瑞子に対する熱烈な想いが綴られている。
瑞は記憶を失ってから初めて受け取る恋文、それも宛先は存在しない人物。
「どうしましょう……」
困った顔で項垂れた。
コソコソと障子の隙間から辺りを伺うと、ちょうど竜胆と桔梗が通りかかるのが見えた。
間から、手を出してちょいちょいと手招きする。
「ん?」
「あの! 二人とも、こんな格好ですみません……ちょっと……相談が、あって……」
「どないしてん、兄やん……」
恥ずかしそうに唇を噛む瑞の姿に、二人は目を丸くする。
黒髪の髷かつらと振袖、女らしく見せる化粧。
「って、ホンマに兄やんか!? は〜……えらい化けたなあ……」
「き、綺麗っす!」
興奮気味に褒める桔梗と、まじまじと見つめる竜胆。
「どうも……それで、あの。おふたりならもし人に嘘をついてしまったらどうしますか」
「嘘?」
顔を見合わせる二人に、瑞は弱々しく頷いた。
「私、嘘をついてるんです。勘違いされてしまって、本当の事を言い出せないまま……逃げようとしたんです」
「そらすぐ言うた方がええやろなあ。わざとちゃうなら相手も怒らへんよ」
「ああ。瑞さんもそんなに悩んでるなら、早く言ってスッキリしちゃった方がいいっすよ!」
あっけらかんとした二人の答えに、瑞は勇気づけられたようで。
さっぱりとした表情で障子を開いた。
「そう、ですよね……ありがとうございます!」
礼を言うと、早足に階段を下りていく。