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影の花

第12章 七変化


「ど、どうかしましたか、私の顔に何か付いて」

「ちょっとごめん」

「あ……!」

正体がバレたかと慌てる瑞の身八つ口に手を突っ込み、衿を引っ張る。

夕顔は慣れた手つきで瑞の緩んだ襟元を正すと、目を細めた。

「襟、緩んでたから。せっかく可愛い服着てるからさ」

どうやら慣れない女物の着物が着崩れしていたらしい。

瑞は目をぱちぱちと瞬かせ、頭を下げた。

「ありがとうございます、上手ですね」

「あー……オレ、水商売やってんだよ。だからかな、はは……」

夕顔は瑞の褒め言葉に自嘲的に笑い、目を伏せた。

「……ごめん、嫌だった?」

瑞は首を横に振る。

「むしろ、夕顔さんのことを話してくれたのが嬉しいです」

「そ……そっか。優しいんだな、瑞子さんは……こういうの、嫌がる子もいるだろうからさ。嘘つくより、早めに言っておいたほうが良いかなって!」

夕顔の顔が綻ぶ。

瑞は、なんとも言えない息苦しさに息が詰まりそうになる。

「それでは、私はそろそろ……」

「もう帰るのかい」

「ええ……ごめんなさい」

夕顔は少し寂しげにしつつ、頷く。

「そっか。名残惜しいけど、無理に引き止める訳にはいかねえもんな。忙しいのに会いに来てくれてありがとう、すげぇ嬉しかったよ」

瑞は小さく頷いた。

「……また会ってくれるかい」

それには黙ったまま、夕顔に背を向け歩き出す。

夕顔は小さくなる瑞を見つめていたものの、おもむろにその後ろ姿を追い掛ける。

瑞の前に回り込むと、驚いた顔の瑞に手紙を差し出した。

「その! これ、帰ったら読んでくれねえかな」

袂から取り出されたそれは、いつからしたためられていたのか、クシャクシャに拠れている。

「オレ、影の花って陰間茶屋で働いてんだ。デカい店だから、すぐ分かると思う……それに場所も書いておいた」

瑞が手紙を受け取る。

「それ読んで、オレのこと少しでも悪くないと思ってくれるなら。会いに来てくれ」
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