第2章 影の世界へ
「ふふ」
「ふふーじゃなくて。もう……」
二人でくすくすと笑い、
「はい! もっと綺麗になったよ」
桜が満足気に頷いた。
長い廊下を歩きながら、桜がふと話し声の漏れる一室に視線をやる。
そこからは萩の声と、年嵩の男の声がしていた。
「……萩さんはまだ旦那様と話してるのかな? 上手く説明してくれたらいいな〜」
瑞がしゅんと顔を暗くする。
「申し訳ないです、ご迷惑をお掛けして……」
「いいのいいの! 瑞は連れてられただけなんだから〜。むしろ被害者かな」
「そんなことありません、桜さんがいなければ私はどうなっていたか分かりません!」
「……ほんと律儀なんだから〜! 可愛」
桜が飛びつこうとした時、瑞の腹から大きな音が鳴り響いた。
「あはははははっ! ほんと、可愛いなあ瑞は! そうだよねえ、お腹空いたよねっ」
桜はお腹を抱えて笑い転げる。
瑞は顔を真っ赤にして頭を下げる。
「すすすすみません……! あの、食べ物の匂いがして、つい……」
「食べ物?」
桜がきょとんと首を傾げる。
ペコペコと謝る瑞から、視線を奥にやれば台所から明かりが漏れていた。