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影の花

第3章 愛情は隠し味


「ふえ〜……よく気がついたねえ」

「すみません……」

「で、でも……これ、食べ物の匂いって言うより、炭の臭いなんだけど……」

桜は顔を顰める。

ズカズカと廊下を歩き、台所を覗き込んだ。

「……紫陽花にい! これなに!? 紫陽花にいが作ってた鍋の中のこれ! なんなの!」

少女のような甲高い声で怒鳴る子ども。

捲りあげた花柄の小袖から出た華奢な手足、明るくて白い肌。

特徴的な栗色の毛は短くうねっており、ぴょんぴょんと跳ねた毛先がなんとも言えず可愛らしい。

子どもは勝気そうな黄緑色の目を吊り上げ、きーっと地団駄を踏んだ。

その手には大きな鍋が握られている。

鍋の中には、モウモウと煙を上げている真っ黒な何かが大量に底に焦げ付き、台所に異臭を漂わせていた。

怒鳴られた相手、紫陽花は困り顔で人差し指を立てて自分の顎に置き、小首を傾げる。

優しい青紫色をした、ふわふわの短髪が揺れる。

笑っているように弧を描いた糸目を更に細くする。

その表情からは感情を読み取りづらいが、かなり途方に暮れているようだ。

小袖に前掛けを着けた姿からも、紫陽花なりに努力した上で消し炭を作ったことが分かる。

「……わ、分かんない、あっ、でも! 多分旬のお野菜か何かかな〜」

紫陽花は言葉に迷いながら、おっとりした口調で答えた。

そして糸目の端から、赤紫色の瞳でちらりと子どもの様子を伺う。

しかしそれが子どもの逆鱗に触れたようで、

「……絶対違うでしょ! 野菜じゃないもん! 炭じゃん! 消し炭じゃんッ!!」

更に肩をいからせて床を踏み鳴らす。
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