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影の花

第12章 七変化


それから幾日か過ぎて。

冷たい雨の降る日。

影の花の前で、藤と夕顔がばったりと出会った。

鶯色の大きな番傘を手にした夕顔が、玄関の戸を開ける。

「……今帰りか?」

「うん」

藤もその横に並び、玄関前で紫色の蛇の目傘を閉じながら微笑んだ。

「それで? 夕顔、今日はその子と会えた?」

「うるせー」

夕顔は荒っぽく答え、傘立てに乱雑に閉じた傘を入れる。

藤を置いて、玄関に入っていった。

藤はそんな姿にやれやれと苦笑する。

「おい夕顔。まだ残ってるぞ」

「いらねえ」

夕顔は瑞子と会った日からずっと上の空で、今日も夕食を残し、そそくさと自室に上がる。

「夕顔おにいちゃん、いらないの?」

「じゃあボクにちょーだい!」

「ぼ、ぼくも……」

撫子は夕顔の残したおかずをしんべこ達に分け与えながら、肩を揺らして笑った。

「夕顔はまたあれか?」

「そ、恋煩い」

萩が眉を寄せて呟く。

「……今回のは長いな」

「夕顔は惚れっぽいからね」

藤の言葉に、椿が頷く。

夕顔の残した汁物を吸いながら、

「夕顔にいは病気だよ。だって、今回のその人と一回会っただけなんだって。名前しか知らないらしいよ」

「ええ!?」

桔梗が目を丸くする。

「そりゃあすげえな……よっぽど美人だったのかな」

「夕顔にいもよーやんなあ」

昼顔が困った顔で言う。

「そうなんです。それなのにずーっと会えないか、その方と会った所で待ってるんですよ」

「……なんで瑞さんそんな罪悪感に満ちた顔してんの?」

一連の会話を聞いていた瑞の顔は、これ以上ないほどにやるせない表情をしていた。

その日の夜、瑞は桜の部屋を訪ねた。

「ん? どうしたの、瑞」

「あの。桜さん、お願いがあるんです……」
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