第12章 七変化
「つ……つい外に出てしまいました……! けど、ど、どうしましょう、こんな姿で!」
桜以外の人にも自分の痴態を見られる、と混乱のあまり思わず茶屋を飛び出した瑞。
当然行く宛てもなく走っているだけで、適当なところで立ち止まった。
小間物屋の壁を背にして口に手をやり、考え込む。
「一刻も早く帰って着替えるしかありませんが、誰かと鉢合わせしてら……良い物笑いの種です」
「お嬢さん」
「どうしましょう……裏口から入るのが良いでしょうか……」
「お嬢さん」
「あ、いきなり飛び出したりして、桜さん怒ってますかね……」
「お嬢さん!」
「はいッ!」
そこで瑞は、ようやく自分に呼びかけられていると気が付く。
顔を上げると、見慣れた顔。
特徴的なひとつに束ねられた長い白髪、金色の切れ長な瞳。
血管の浮いた腕、すらっとした項。
夕顔が立っていた。
瑞は心の中で悲鳴を上げる。
「随分と考え込んでたみてえだけど、何か悩み事かい?」
「いえ、そんな、どうでも良い事ななので……」
「オレで良ければ話聞こうか」
「だっ、大丈夫です! ほんとに!」
いつになく親切な声色で話しかけてくる夕顔に、瑞はブンブンと首を横に振る。
「そうかい? 何かお嬢さんの役に立てることがあれば、いつでも言ってくれよ」
「いや……そんな……」
夕顔は断られても尚、その場から動く気配は無い。
瑞は平静を装いながら、夕顔をちらりと見る。