第12章 七変化
藤と呼ばれた彼は生返事をし、
「そんなことより、手が空いてるなら手伝ってくれないかな」
夕顔を見上げる。
藤は夕顔と同じ年頃ながら、未だに女装して客を取れそうな艶っぽい顔立ちをした好青年だった。
垂れ気味な目尻、伏し目がちな藍色の瞳。
細い鼻筋と物憂げな唇。
深い青色をしたサラサラの髪を襟足辺りで揃えている。
年に似合わず柔らかな物腰と、落ち着き払った態度。
白い肌に薄く白粉を塗り、爪には紅を塗って、綺麗な振袖を身にまとっていた。
夕顔よりも華奢で小柄な背丈も相まって、一見すると女性と見間違うような色香がある。
夕顔は手伝う気もなさそうに藤を見る。
「……なんでお前、こんなとこで畳んでんだよ」
「下で畳んでいると椿くんたちが来て集中出来ないからね」
「あーそう……くそ、朝顔も昼顔もすぐに絆されやがって」
藤が頷く。
「確かによく懐いてるね。瑞さん、夕顔が仕事行ってる間、よく面倒見てあげてるみたいだよ」
「……夜顔兄さんも」
夕顔はそう零し、薄く唇を噛んだ。
藤はそんな親友の様子を見て笑う。
「良かったじゃない。夜顔さん、この前廊下で会ったけど、僕と目を合わせてくれたよ。昔の夜顔さんと変わり始めてる」
「オレじゃなくて、アイツのおかげで……ってことかよ、藤」
「そうは言ってないよ。夕顔は何年も夜顔さんのことを支えてきたじゃない。その積み重ねがあってこそだよ。……でも、瑞さんあの日からずっとおにぎり作ってくれてるんでしょ?」
夕顔が黙る。
「その大変さ、夜顔さんを支えてきた夕顔なら分かると思うけど」