第11章 夜に咲く花
「髪とか服、ちゃんと洗ってたんだね。ずっと会ってないからどうなってるか心配だったよ」
一階に降り、四人でおにぎりを食べる。
昼顔が笑みを浮かべた。
「それは……洗濯は夕がしてくれてたし」
「夕顔さん、お兄さんに夕って呼ばれてるんですね」
「そうですよ、僕は昼」
瑞が昼顔にこしょこしょと話しかける。
「それでは朝顔さんは朝」
「うるせーぞお前ら! 夜顔兄さんが今喋ってんだろうが!」
夕顔が卓を叩いた。
「髪とか顔は……やっぱり綺麗にしとかなきゃ」
そう言う夜顔の顔には髭の一本もなく、爪も綺麗に整えられていた。
髪こそ長いが、その言葉通り、夜顔が整容に気を使っているのは明らかだった。
「そうだよな! だって兄さんは日本一の陰間で……!」
「夕」
「あ……」
「言っておくけど、もう僕は陰間をする気は無いから」
「ごめん、兄さん……」
夕顔が声を落とす。
「……おにぎり、食べに来ただけだから」
夜顔は長い髪に隠れるように顔を伏せ、おにぎりにかぶりついた。
「それではそろそろ寝ましょうか……」
「そうですね。瑞さん、ご馳走様でした」
夜顔も腰を上げた。
「帰る……」
夕顔は思わず夜顔の帯を掴む。
「……夕?」
「あ、あのさ! 兄さん、また一緒に食べようよ!」
そんな言葉が口をついて出ていた。
「コイツがまたおにぎり握るから! 毎日!」
「えっ」
「ンだよその顔? 下働きのてめえが仕事選ぶつもりか?」
「違いますよ! 良いんですけどちょっとびっくりしただけで……」
「オレのじゃダメなんだから仕方ねえだろ! オレだっててめぇに頭なんか下げたくねぇんだよコラ」
夕顔は瑞にメンチを切る。
「ぜ、全然頭下げてないですよ ! 下げて欲しくもないですけど!」
「ンだと!」
二人でぎゃーぎゃーと言い争っている間に、夜顔は台所を出て行く。